東京高等裁判所 平成5年(ネ)461号 判決 1994年12月26日
第四四一号事件控訴引受参加人
永来商事株式会社
(以下「引受参加人」という。)
右代表者代表取締役
望月年男
右訴訟代理人弁護士
伊藤嘉章
第四四一号事件脱退控訴人
日本相互住宅株式会社
(以下「一審被告会社」という。)
右代表者代表取締役
塚本三千一
第四四一号事件被控訴人、第四六一号事件控訴人
株式会社昇賢
(以下「一審原告」という。)
右代表者代表取締役
文永明
右訴訟代理人弁護士
川上英一
同
髙橋富雄
第四六一号事件被控訴人
国
(以下「一審被告国」という。)
右代表者法務大臣
前田勲男
右指定代理人
徳田薫
外四名
主文
一 一審原告の控訴を棄却する。
二 原判決主文一ないし三項を次のとおり変更する。
1 一審原告と引受参加人との間において、一審原告が原判決別紙物件目録記載(一)の土地について、木造建物所有を目的とし、存続期間を平成元年六月一二日から三〇年間とする地上権を有することを確認する。
2 前項の地上権の地代を、一か月金四五二〇円と定める。
3 引受参加人は、一審原告に対し、右1項記載の地上権について、平成元年六月一二日法定地上権取得を原因とする地上権設定登記手続をせよ。
三 控訴費用は、一審原告と一審被告国との間においては一審原告の負担とし、一審原告と引受参加人との間においては引受参加人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
〔平成五年(ネ)第四四一号事件〕
一 一審原告
1 主文二項1ないし3に同じ。
2 控訴費用は引受参加人の負担とする。
二 引受参加人
一審原告の引受参加人に対する請求を棄却する。
〔平成五年(ネ)第四六一号事件〕
一 一審原告
1 原判決中一審被告国に対する請求に関する部分を取り消す。
2 一審被告国は、一審原告に対し、金一〇〇万円及びこれに対する平成二年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第一、第二審とも一審被告国の負担とする。
二 一審被告国
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は一審原告の負担とする。
3 仮執行免脱の宣言
第二 当事者の主張
次のとおり加除、訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決三枚目表四行目から次行にかけて及び同裏三行目の各「千葉信用保証協会」をいずれも「千葉県信用保証協会」と改め、同表六行目の「次いで、」を削り、同裏五行目の「競売事件」の次に「(以下「本件競売事件」という。)」を加え、同六行目の「を競落してその所有権を取得し、」を「の所有権を本件競売事件における売却によって取得し、」と、同八行目の「競落の結果、」を「所有権を右売却によって取得した結果、」と、同四枚目表一行目の「取得した。」を「取得し、同年三月一日、その旨の所有権移転登記を経由した。」とそれぞれ改める。
二 原判決四枚目表一行目と次行との間に次のとおり加える。
「6 一審被告会社は、平成四年一二月二〇日、本件土地の所有権を訴外千葉木材センター株式会社に譲渡し、さらに、右訴外会社は、平成五年九月二〇日、本件土地の所有権を引受参加人に譲渡し、引受参加人は、同年一一月一六日、その所有権移転登記を経由した。
7 土地の地代は、その土地につき賦課される固定資産税及び都市計画税の額の三倍程度が相当とされているところ、本件土地の平成二年度における固定資産税と都市計画税の合計額は一万七九三〇円であり、その三倍相当金額は年額五万三七九〇円(月額四四八二円)となるから、本件土地の地代は月額四五二〇円が相当である。」
三 原判決四枚目表二行目の「6」を「8」と、同六行目の「7」を「9」と、同裏八行目の「8」を「10」と、同五枚目表一行目の「金三五万円」を「金二〇万円」とそれぞれ改め、同三行目の「あれば」の次に「、一審原告は、本件建物を」を加え、同六行目を削り、同七行目の「9」を「11」と、同行、同一一行目及び同裏六行目の各「被告日本相互住宅」をいずれも「引受参加人」と、同裏二行目から次行にかけての「金三一〇万円」を「金一四〇万円」とそれぞれ改める。
四 原判決六枚目表五行目の「請求原因5」を「請求原因5及び6」と改め、同行と次行との間に「6 請求原因7の事実は否認する。」を加え、同八行目の「6」を「8」と、同一〇行目の「7」を「9」と、同裏六行目の「8」を「10」とそれぞれ改め、同行の「被告」の次に「国」を、同七枚目表一行目の末尾に「仮に本件地上権が公売によって消滅せずに存続しているとしても、本件地上権は建物登記による対抗要件を備えているから、その後一審被告会社から本件土地の所有権を取得した第三者に対抗できることは右と同様である。」をそれぞれ加え、同二行目の「被告」を「引受参加人及び一審被告国」と、同三行目の「被告日本相互住宅」を「引受参加人」とそれぞれ改め、同一一行目の「法定地上権の」の次に「成立」を、同裏一行目の末尾に「なお、千葉地方裁判所木更津支部も、本件建物について法定地上権が成立しないものとして本件建物を売却している。」をそれぞれ加え、同六行目を「ものであり、同法条違反の他人の権利の譲り受けは民法九〇条によって無効というべきであるから、一審原告は本件建物の所有権を取得していない。」と改め、同八枚目表五行目を削り、同六行目の「(四)」を「(三)」と改め、同八行目から同裏四行目までを次のとおり改める。
「4 一審原告と一審被告会社との間において本件土地につき本件地上権が成立したとしても、引受参加人は善意で本件土地の所有権を取得した者であるから、一審原告は本件地上権の取得を引受参加人に対抗することができない。
5 本件建物の利用のためには、本件土地のうち本件建物の北側五〇センチメートルまでの部分さえ確保できれば十分であるから、本件地上権の範囲は、本件土地のうち別紙実測図の部分(118.59平方メートル)を除いた範囲に限定される。」
五 原判決八枚目裏一〇行目の「国税債権」の次に「(加算税、延滞税を含む。)」を、同一一行目の「国税通則」の次に「法」を、同九枚目表四行目の「登記をした」の次に「(以下、右滞納処分による差押えを『本件差押え』といい、その登記を『本件差押登記』という。)」をそれぞれ加え、同裏五行目から同一〇枚目裏八行目までを次のとおり改める。
「(二) 差押えは、差押後の目的財産について法律上又は事実上の処分を制限する効力(いわゆる処分制限効)を有するから、差押後に目的不動産について設定・取得された権利あるいは経由された登記は、差押えの処分制限効に抵触するものとして、いずれも換価に伴い消滅しあるいは抹消される運命を免れないと解すべきである。
本件においては、東京国税局長による本件差押登記がされたのが昭和六〇年八月九日であり、本件仮登記は平成元年八月二九日にされ、本件差押登記に後れるものであるから、東京国税局長がその処分制限効に抵触するものとして本件仮登記を抹消したことは適法である。
(三) 仮に本件差押えの処分制限効を根拠に直ちに本件仮登記を抹消することができないとしても、本件地上権は本件差押えに実体上対抗することができず、公売の結果消滅する権利であり、東京国税局長が不動産登記法二九条に基づいてした抹消登記の嘱託は適法なものというべきである。
すなわち、第三者に対抗できる用益物権であっても、それらの権利の設定前に設定され、かつ、換価によって消滅する担保物権がある場合には、その用益物権も消滅する。法定地上権は、土地又は建物の競売によってその所有権が買受人に移転するときに成立するものであり、本件においては、平成元年六月一二日一審原告が本件競売事件において本件建物を買い受けその代金を納付した時点において、本件建物のため本件地上権が成立したものであるところ、本件土地には、本件地上権の設定前である昭和五七年一一月五日及び昭和六〇年七月二日にそれぞれ登記を了した各根抵当権が存在し、それらはいずれも本件差押えに基づく換価によって消滅する権利であるので、本件地上権も右換価によって消滅した。
四 引受参加人及び一審被告国の主張に対する認否
1 引受参加人の主張はいずれも争う。
2 一審被告国の主張のうち、本件公売処分の経緯については認めるが、本件仮登記の抹消登記の嘱託が適法であるとの点は争う。
本件地上権は本件土地の買主に対抗することができ、換価に伴って消滅する権利ではないから、換価に伴い消滅する権利の抹消の嘱託について規定した国税徴収法一二五条の『換価に伴い消滅する権利に係る登記』に該当せず、東京国税局長は本件仮登記の抹消の嘱託はできない。」
第三 証拠
証拠関係は、本件訴訟記録中の原審及び当審における書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第一 引受参加人に対する請求について
一 請求原因について
1 原本の存在及び成立に争いのない甲第二号証、成立に争いのない甲第一二、第一三号証及び弁論の全趣旨によれば、請求原因1の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。
2 成立に争いのない甲第一号証、乙第一号証及び同第三号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第五号証、本件係争現場の写真であることにつき争いのない甲第一一号証及び弁論の全趣旨によれば、いすみ建設が近藤悦治から本件土地を買い受け、昭和五七年一〇月六日に右売買を原因とする所有権移転登記を受けたこと(右登記の事実は、一審原告と引受参加人との間で争いがない。)、本件土地上には本件建物の一部が存在し、右建物底地以外の本件土地部分は本件建物のための庭となっていたことが認められる。成立に争いのない乙第二号証中の配置図には、本件建物が本件土地上には存在しないように表示されているが、その根拠は明らかでないのみならず、前掲甲第五号証及び乙第一号証の記載に照らせば右の配置図の記載は正確性に欠けると認められるから、にわかにこれを採用することができず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
3 前掲甲第一、第二号証及び弁論の全趣旨によれば、請求原因3の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。
4 そこで、請求原因4の事実(本件競売事件に至る経緯及び一審原告による本件地上権の取得)について検討する。
(一) 前記1ないし3の事実、前掲甲第一、第二号証、同第五号証、同第一二、第一三号証、乙第一ないし第三号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第六号証、成立に争いのない乙第四号証の一ないし八及び同第五号証並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、その認定に反する証拠はない。
(1) いすみ建設は、昭和五一年一〇月一三日、同会社の訴外株式会社千葉銀行に対する銀行取引債務、手形債務及び小切手債務の支払いを担保するため、その所有に係る本件建物及び件外土地に極度額六二五万円の根抵当権を設定し、同月一六日その旨の根抵当権設定登記をし、昭和五五年一月三一日極度額を三七五〇万円に変更し、同年三月三日根抵当権変更登記をした。
(2) 次いで、いすみ建設は、昭和五七年九月二〇日、近藤悦治から原判決別紙物件目録記載(三)(1)の件外土地に隣接する本件土地を買い受け、同年一〇月六日所有権移転登記を受けた。
(3) いすみ建設は、同月三〇日、訴外長生信用組合に対する信用組合取引に関する債務、手形債務及び小切手債務の支払いを担保するため、その所有に係る本件土地に極度額三三〇万円の根抵当権を設定し、同年一一月五日その旨の根抵当権設定登記をした。
(4) さらに、いすみ建設は、昭和六〇年五月二五日、訴外新日本工業株式会社に対する金銭消費貸借取引債務、手形債務及び小切手債務の支払いを担保するため、その所有に係る本件建物、本件土地及び件外土地に極度額六〇〇〇万円の根抵当権を設定し、同年七月二日その旨の根抵当権設定登記をした。
(5) 千葉県信用保証協会は、弁済による代位により前記(1)記載の根抵当権の移転を受けた上、本件建物及び件外土地について、右根抵当権の実行として千葉地方裁判所木更津支部に本件競売事件を申し立てた。一審原告は、平成元年六月一二日、本件競売事件の売却により本件建物及び件外土地の所有権を取得し、同月一三日その所有権移転登記を受けた。
(二) ところで、建物について一番抵当権が設定された当時土地と地上建物の所有者が異なり、法定地上権成立の要件が充足されていなかった場合であっても、土地と地上建物を同一人が所有するに至った後に土地及び地上建物に後順位抵当権が設定され、その後に抵当権が実行され、地上建物が売却されたことにより一番抵当権が消滅する前記認定のごとき事実関係の下においては、土地について地上建物のための法定地上権が成立するものと解するのが相当である(大審院昭和一四年七月二六日判決・民集一八巻七七二頁、最高裁第二小法廷昭和五三年九月二九日判決・民集三二巻六号一二一〇頁参照。)。もっとも、本件では、右の土地及び地上建物に対する後順位抵当権に当たる前記(一)(4)の新日本工業株式会社の根抵当権が設定されるよりも前に、本件土地のみに前記(一)(3)の長生信用組合の根抵当権が設定されているが、長生信用組合の根抵当権が設定された時点においては、既に本件土地と本件建物とは同一人(いすみ建設)の所有に帰属していたものであるから、長生信用組合としては、根抵当権の設定を受けるに当たり将来右根抵当権を実行する場合に法定地上権の成立すべきことを予期し、これを前提として本件土地の担保価値を評価するものと考えられる。それゆえ、前記(一)(1)の千葉銀行(千葉県信用保証協会)の根抵当権の実行の結果本件土地について本件建物のための法定地上権が成立すると解しても、不当に長生信用組合の利益を害することにはならないから、本件土地について長生信用組合の根抵当権が設定されている事実は、前記判断の妨げとなるものではない。
したがって、本件においては、一審原告が本件競売事件の売却によって平成元年六月一二日に本件建物の所有権を取得した時点において、本件土地について本件建物のための法定地上権が成立したことが認められる。
5 請求原因5及び6の事実はいずれも当事者間に争いがない。
したがって、引受参加人は、本件地上権の制約がある本件土地の所有権を取得したことになる。
二 引受参加人の主張について
引受参加人は、一審原告の本件建物の買受けが無効であるとか、一審原告が本件地上権の取得を主張することが権利の濫用であると主張するが、右主張はいずれも容認できない。その理由は、原判決理由説示第一の二及び三のとおりである(但し、原判決一四枚目表六行目から次行にかけての「よるにも」を「よっても」と改め、同裏六行目から次行にかけての括弧書を削り、同七行目の「被告日本相互住宅」を「引受参加人」と改める。)から、これを引用する。
また、引受参加人は、一審原告と一審被告会社との間において本件土地につき本件地上権が成立したとしても、一審原告は、その後本件土地の所有権を取得した引受参加人に対して本件地上権の取得をもって対抗することができない旨主張するが、法定地上権の成立についても建物保護ニ関スル法律第一条の借地権の対抗力に関する規定の適用があるから、一審原告は、法定地上権そのものの登記を有しなくても、本件建物の所有権移転登記を経由すれば本件地上権を本件土地の所有権の取得者に対抗することができるのであり、一審原告が本件地上権成立の翌日である平成元年六月一三日に本件建物の所有権移転登記を受けたことは前記4(一)(5)のとおりであるから、引受参加人の右主張は採用できない。
三 本件地上権の範囲について
法定地上権の範囲は、建物の存続に必要な部分のみに限定されるものではなく、建物の個別的性格に即した利用のために通常必要とされる範囲の敷地部分にも及ぶものと解せられる。これを本件についてみると、前掲甲第一号証及び同第一一号証によれば、本件建物は床面積約一〇〇平方メートルの平家建ての居宅であり、本件土地の一部は本件建物の底地となり、残部も、ブロック塀と本件建物とに挾まれ、外観上右居宅と一体をなす庭として利用されてきたものであることが認められる。
引受参加人は、本件建物の利用のためには、本件土地のうち建物底地部分のほか建物壁面から五〇センチメートルの幅の土地部分を確保しさえすれば十分であり、右残余の部分の118.59平方メートル(35.87坪)は本件建物の利用上不可欠なものではないと主張する。右残余部分は、庭としてはやや広く、かつ、その面積形状から独立して利用することも可能であることは否定できないが、本件建物の敷地として取引通念上異常に広いものではなく、切り離して別の用途に利用されてきたこともなく、また区別して利用するのに特に適した状況が存するとも認められないことを考え合わせれば、右残余部分も本件建物の敷地として利用に供されるべきものとみるのが相当であり、本件土地の全体について本件地上権が成立するものと認められる。
四 本件地上権の地代及び期間について
前掲乙第一ないし第三号証、成立に争いのない甲第七号証の三によれば、本件建物は木造亜鉛メッキ鋼板瓦交葺平家建ての建物であること、本件土地の平成二年度における固定資産税及び都市計画税の評価額は一一二万〇六五〇円であることが認められ、右事実に、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第七号証の一・二の記載及び弁論の全趣旨を考え合わせれば、本件地上権の地代の額は、一審原告の主張する一か月四五二〇円を超えないものと認められるから、地代額を右のとおりとし、存続期間は三〇年と定めるのが相当である。
第二 一審被告国に対する請求について
一 請求原因1ないし5の事実は当事者間に争いがない。
二 前掲甲第一号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第三号証及び成立に争いのない甲第四号証によれば、一審原告は、平成元年八月三日、千葉地方裁判所木更津支部に対し、本件地上権に基づく地上権設定の仮登記仮処分命令を申し立て、同月四日、地上権設定仮登記仮処分決定を得たこと、同月二九日、右仮処分決定に基づく本件仮登記がされたことが認められ(本件仮登記がされた事実は当事者間に争いがない。)、右認定に反する証拠はない。
三 そこで、一審被告国が本件公売処分において本件仮登記の抹消登記をしたことが違法であるか否かについて検討する。
一審被告国は、本件仮登記の抹消登記は、東京国税局長が不動産登記法二九条の規定に基づいてしたものであると主張するのに対し、一審原告は、本件地上権が本件土地の買主に対抗することができ、換価に伴い消滅する権利ではないことを理由として、換価に伴い消滅する権利の登記の抹消の嘱託について規定した国税徴収法一二五条の「換価に伴い消滅する権利に係る登記」に該当せず、不動産登記法二九条二号の「公売処分ニ因リ消滅シタル権利」には該当しない旨主張する。
滞納処分による差押えは、公売手続開始の時点で目的財産についての権利関係を固定することによって、手続開始後における目的財産の価値を減少ないし消滅させる行為を禁止するとともに、権利関係の変動を防止して公売手続の円滑な遂行を確保することを目的とするものであるから、債務者の処分行為を禁止し、その後この処分禁止に反して債務者が行った処分行為の効力を否定、制限するとともに、その後の第三者の目的財産に対する仮処分等の権利行使の効力をも否定、制限するものである。そして、右にいう処分行為や権利行使とは、実体上の権利の設定、変更に限られず、権利に対抗要件を付与することを目的とする登記手続上の行為も含むものと解される。したがって、差押えの効力発生後にされた登記取得行為は、公売処分により効力を失うものというべきである。たまたま当該登記に係る権利の設定ないし移転が他の対抗要件によって実体的に滞納処分庁ないし公売処分における買受人に対抗することができるものである場合であっても、そのことの故にさらに登記の取得行為そのものまで是認されなければならない理由はないから、右の理に変わりはない。そして、不動産登記法二九条二号の「公売処分ニ因リ消滅シタル権利」とは、公売処分により効力を失った権利の取得又は仮処分に係る登記をも含むものと解するのが相当であるから、滞納処分庁は、右規定によって差押えの登記後にされた所有権その他の権利の登記の抹消を嘱託することができるものというべきである。
これを本件についてみると、前記一、二によれば、本件土地について本件仮登記がされたのは平成元年八月二九日であり、昭和六〇年八月九日にされた本件差押登記に後れるものであることが認められるから、本件公売処分に当たり東京国税局長が本件仮登記の抹消登記の嘱託をしたことは違法とはいえない。一審原告の前記主張は、本件地上権自体の効力と、本件仮登記の効力を区別しないものである(因みに、本件地上権自体の対抗力は、本件仮登記によって取得されたものではなく、本件建物の所有権移転登記によるものである。)から、容認することができない。
第三 よって、一審原告の引受参加人に対する請求は理由があるから、これを認容し、一審原告の一審被告国に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく失当であり、これを棄却した原判決は相当であるから、一審原告の本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官加茂紀久男 裁判官鬼頭季郎 裁判官柴田寛之)
別紙実測図<省略>